2005年11月19日
人間が吐き出す息にはざまざまなガスが含まれている。ノーベル化学賞と平和賞を受賞したアメリカの科学者、ライナス・ポーリング博士は、1970代に、呼気には、さまざまなガスのほかに、ゆうに100種類を超える有機化合物が含まれていることを示した。つまり、呼気を精密に分析すれば、からだの中で起きていることがいろいろわかるかもしれない、というのだ。これまで、呼気は、せいぜい酔っぱらい運転を取り締まるための、アルコール検査に使われるくらいだった。ところが、最近、呼気の分析技術が進歩して、病気の診断、検査に使われる可能性が広がった。まず、最新の話題は、呼気検査は心臓移植後に、患者が、拒絶反応を起こしていないかどうか、を検査するための手っ取り早い方法として注目されていることだ。心臓移植で常に付きまとうのが拒絶反応。それを調べるには、普通、患者の体から組織の小切片を取り出して、病理学的に調べるバイオプシー(生検)が行われる。これを吐く息で調べようという研究を行っているのは、ニューヨーク州バルハラにあるニューヨーク医科大学(New York Medical College)の内科学教授、マイケル・フィリップス博士。博士は、呼気で拒絶反応を検査する装置を開発して、昨年(2004年)FDA(米食品医薬品局)の認可を得た。それによると、患者は、ステンレス製の管に約2分間息を吹き込むだけで、あとは、呼気分析器が、拒絶反応の有無を教えてくれる。この分析装置の性能は、バイオプシーの代わりになるほどまでには行っていないが、もしこの検査でマイナス(陰性)と出れば、その後のバイオプシーの数を省くことができるという。何しろ、通常、心臓移植後はバイオプシーを十数回行うので、この数を少しでも減らすことができれば、患者にとって大助かりだ。もちろん、費用も相当少なくできる。この他、フィリップス博士は、呼気を分析して、初期の肺がんを診断する方法の研究も行っている。現在、肺がんの検査は、CTスキャンで調べてから、バイオプシーで確認するが、この過程の一部でも、呼気分析で省くことができるようになるかもしれない、と博士は言っている。
さらに博士は、その人が爆薬を扱ったかどうかを吐く息で知ろう、という、法医学的な呼気分析方法の開発に取り組んでいる。カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のアントニオ・カタンザロ博士は、NIH(米国立衛生研究所)の研究費を得て、いま、肺結核の診断に呼気分析技術が使えないかどうかを研究中だ。実現すれば、いま時間がかかり、時に不正確と言われる肺結核の診断に画期的な方法が生まれるかもしれない。このように、吐く息の分析によって生まれる恩恵はどんどん広がっている。