2005年08月11日
アメリカでは、表向き、人種差別が撤廃されていることになっている。しかし、はっきりと目に見える差別ではないが、黒人、その他のマイノリティ(少数派)の人たちが、「差別されたのではないのか」と感じる経験をすることが、日常のなかでままある。例えば、ある黒人の女性はこう言う。昼食時に、サンドイッチの店で順番を待っていたのに、自分を通り越して、あとの白人の方を先にした。自宅近くの店で買い物をする時、店員は、往々にして、自分を無視して、白人を優先させる。レストランで、他にテーブルが空いているのに、トイレ近くの席に案内される。「そんなのしょっちゅうよ。毎日のようにそんな経験をしていると、自分が他の人と別の世界にいるのかな、この世に正義というものがあるのかしら、と思うようになります」と言うのはある黒人の母親、56歳。医学界では最近、黒人が白人より、概して健険がすぐれていないのは、このような、微妙ながらも差別と感じられる、慢性的なストレスと関係しているのではないだろうか、と言う考えが強まっている。このほど、ワシントンで開かれた「米心臓学会」で、シカゴにある「ラッシュ大学医学センター」の健康心理学者のテネ・ルイス博士の発表は注目を集めた。博士らは、45歳から58歳までの黒人女性181人を対象に、1996年から2001年にかけて調べた。まず、これらの女性に質問表を渡し、日常生活の中で、人種差別と感じた経験がるかどうかを、10項目に分けて聞いた。例えば、「あなたは店員から、ぶっきら棒な扱いを受けたことがありますか」「レストランなどで、他の客と比べて、サービスが悪い、と思ったことがありますか」「銀行や商店などで、自分の存在を無視されたことがありますか」などなど。この質問では、答えを4段階答えさせ、これを6年間続けて平均値を出した。そして調査の最後の年、2001年に、女性たちのCTスキャンを撮り、心臓に血液をおくりこんでいる冠状動脈のカルシウム沈着(calcification)の状況を見た。冠状動脈のカルシウム沈着を見れば、心臓病の初期かどうかがわかる。その結果、差別経験が多い、と答えた人ほど、カルシウム沈着が進行していた。その程度は普通の女性と比べると約3倍、女性の血圧、コレステロール値、喫煙、年齢、体重といった、心臓病になりやすくする要因を除いても、カルシウム沈着は2.5倍あったという。「そこには、見事な相関関係があった。微妙だが、慢性的に受けた人種差別の経験の積み重ねで、このような結果が生じたとしか考えれない」とルイス博士は述べている。人種と健康の問題に詳しいミシガン大学のデービッド・ウイリアムズ博士は、「この研究のデータを拝見すると、明らかに、差別を受けたという気持ちの積み重ねが、人間の生理に影響を及ぼし、健康にとって害となっている」とコメントしている。また、米心理学会の筆頭理事、ノーマン・アンダーソン博士は、「この研究は、差別感と特定の病気の発生とを結びつけたと言う意味で画期的である」と称賛している。しかし、この研究に批判的な人もいる。米企業家協会(AmericanEnterpriseInstitute)に所属する学者であるサリー・サテルさんは「調査した女性が経験したことが、本当に差別なのかどうか、わからない。自分だけでそう思っていることもある。だれかに乱暴な扱いを受けると、すぐに差別だ、といつも構えているような人が、心臓病にかかりやすいのではないか。こういう研究はナンセンスだ」と一蹴している。