2005年06月04日
動物の生理的活動を一時的にほぼ完全に停止させ、冬眠と同じ状態におく実験に、マウスで成功した、というニュースが4月22日発売の科学誌「サイエンス」で報じられた。この研究を行ったのは、シアトルにあるハッチンソンがん研究センター研究員で、ワシントン大学にも勤務している、マーク・ロス博士をリーダーとする研究チーム。同博士らは、冬眠をしないマウスを、80ppmという微量の硫化水素を混ぜた空気を入れた箱のなかに置いた。ppmは100万分の1で、80ppmは、100万CC(1立方メートル)に80CCの硫化水素を空気と混合した割合の濃度のガスだ。硫化水素は、無色だが、卵が腐ったような特異なにおいがある。自然界には、火山灰や鉱泉に含まれ、硫黄を含むたんぱく質が腐敗しても生ずる。生体内では、エネルギー利用とともに硫化水素が発生する。硫化水素は、濃度が高いと毒性を示す。このガスで満たされた箱の中に入れたマウスは、5分後には動かなくなった。そして、マウスは意識を失い、それまで1分間に120回ほどだった呼吸が、10回以下に減り、酸素消費量が激減した。同時に、華氏98.6度(摂氏37度)あったマウスの体温が、華氏51.8度(摂氏15.4度)まで低下した。つまり、わずか5分で、マウスの代謝機能が90%下がり、事実上、活動停止状態に入ったのである。6時間経過後、マウスは箱空取り出され、常温の部屋に戻してやったら、マウスはすぐに体を動かし、代謝機能が、ゆっくりと回復し始めた。そして、2時間後には、完全のもとのマウスに戻ったのである。研究者たちは、元に戻ったマウスを詳しく調べたが、行動、機能など異常はまったく見当たらなかった、という。ロス博士は、「この実験で、マウスは一時的に、温血動物から低血動物になった。これは、冬眠する哺乳動物が、自然界で冬眠に入る時と、まったく同じ経過をたどったことになる。われわれは、すべての哺乳類は、この変化をたどる能力を備えていると考えている。人間も例外でないだろう。将来、必要な時に、冬眠のスイッチを、つけたり消したりできるようになるだろう」と話している。もし、人間でも、冬眠が誘発でき、しかも、安全性が確認されれば、まさに、SFの世界が実現することになる。「とくに、医学面での応用の可能性は計り知れない」とロス博士は次のように述べている。「まず、一時的に生体の活動をストップさせて、時間稼ぎができる。例えば、緊急に臓器移植が必要な患者、あるいは、交通事故などで、出血多量で死に直面している人を、即座に冬眠状態に置いて、代謝機能を停止させ、輸血、あるいは、移植手術ができるまでの時間稼ぎができる。その他、心臓発作や脳卒中で担ぎ込まれた人の損傷を最小限に食い止める、がんの化学療法による副作用を最小限に食い止めるために、人工的冬眠が利用できるだろう」冬眠しない動物を冬眠させる、というアイディアは、少なくとも50年前からあった。これまでにも、酵母菌、虫類、果物につくミバエ、などでは、冬眠に成功したことがあるが、哺乳動物で実現したのは、今度がはじめてだ。なお、ロス博士らの冬眠に関する研究は、米国防総省から資金が出されている。軍の当局は、戦場で負傷した兵士を、搬送できるまでの間保護するための方法として、冬眠の誘発を考えている、という。