2004年04月16日
胃袋を小さくし、通過する食べ物の量を制限することによって体重を減らす、という肥満手術が、ここ数年、アメリカで急増している。
アメリカでは、肥満がいま最大の国民的健康問題になっているが、ダイエット、エクササイズ、減量薬など、いろいろなことをやっても、なかなか実効が上がらない人が多い。
そこで、手っ取り早いところ、胃を手術してしまえ、という風潮が強まった。
しかも、手術によって劇的に減量に成功した、という実例が次々と報告されるため、われもわれもと外科医の門をたたく人が増えているのである。
3大ネットワ-クの一つであるNBCの朝のワイド番組「トゥデ-」のお天気担当のアル・ロ-カ-さんが、最近肥満手術を受けて、見違えるほどスマ-トになったことも、肥満手術の普及に拍車がかかった。何しろ、毎朝見ている人だから、そのインパクトも大きいのだ。
肥満手術の方法は2通りある。
一つは、「バイパス方式」で、胃の入口付近だけを小さく残して、あとは閉じてしまい、十二指腸をパスして、直接小腸につなげる。こうすれば、食べ物は胃に滞留することなく、腸に流れる。
もう一つは「バンド方式」で、胃の上部をベルト様のもので絞める。ベルトは食塩水を使って調節できるようになっている。こうすると、食べ物は、一応、胃、十二指腸、小腸を通過するが、ベルトを絞めたり、ゆるめたりして、胃の中に入る食べ物の量を制限することができる。
肥満手術は、1990年代のはじめには、年間1万6000件ほどだったが、それが次第に増えて、2003年には10万3,000件に達した。今年(2004年)には、15万件に上るだろうと予測されている。
1991年に決められたガイドラインによると、肥満手術を受けられる基準は、標準体重より、少なくとも100ポンド(45キログラム)超過している人で、しかも、肥満のために重大な健康問題を抱えていることが条件となっている。
この条件を満たしている人は、アメリカには何百万とおり、今後さらにどんどん増えることは間違いない。
しかも、このような「肥満が病気」の人だけでなく、単にやせたい、というだけで肥満手術を受ける人が、とくに若い世代に目立つようになり、肥満手術の予備軍の数は計り知れない、と言われている。
当然、病院では、肥満手術待機者が増え続け、一人の外科医が手術を数多くこなすため、安全性がおろそかになっていることが懸念されている。
実際に、肥満手術にともなう併発症の発生、死亡例が問題になっている。
例えば、マサチュ-セッツ州政府は、肥満手術によって数人の死者が出たことを受けて、特別調査委員会を発足させた。
また、重大な併発症とまでは行かなくとも、肥満手術によって、出血、凝血、感染、嘔吐、下痢、栄養失調、といった症例は数知れず起きている、という。
そこで、連邦政府の医学研究の総元締めであるNIH(国立衛生研究所)では、5年計画、1,500万ドルの予算で、肥満手術に関するデ-タを集め、その実態を把握して、改善策を講じることにしている。
肥満手術によって、医療費が急伸していることも大きな問題となっている。
肥満手費は平均2万5,000ドルの費用がかかる。そのコストは全米でざっと30億ドル(3000億円)に上る。
肥満問題とその経済的影響にくわしい調査研究機関「ランド・コ-ポレ-ション」のロ-ランド・スタ-ン氏は「健康保険会社は肥満手術のコストの重圧を感じ始めている。今後、肥満が米社会に、疫病にようにさらに進行すれば、アメリカの医療保険システムを破綻させるほどの、きわめて大きな要因となるだろう」と述べている。